「ねぇ、おとーさん。なんでこんなにいっぱいけんがあるの?」
「んーとな、一つ一つ種類が違うんだよ」 幼い頃から武器に近い環境で育ってきたせいか、息子は自分にとって物珍しい武器を見上げては私によく問いかけてくる。刃物は比較的どれも扱うものの、流石に幼い子供がいる中で手が届く所へ置いてしまっては危ない。迂闊に触れないように壁に立てかけていたからだ。 「しゅるい? みんなおんなじにみえる」 鞘に収まっているから息子の目にはそう見えてしまうのだろう。 「いい子に出来るならどう違うか見せてやろう」 「うん! いいこにする!」 今まで剣を磨いたりする時も息子が寝ている時間を見計らっていた。だから息子は間近で刃を見た事はない。何にでも興味を持つ盛りではあるのだろう。特に男の子だからって事もあるかもしれないが。 「分かった、なら椅子に座って待ってなさい」 自分のかつて幼い頃もそうであったなと苦笑しながら、指示してやるとよほど気になっていたのか大人しく椅子に腰掛けた。 私は二本の武器を壁から外し、持って行く事にする。息子の近くで腰掛け、まず一つ鞘からゆっくりと抜き出した。 「おおおおお!」 光に反射してキラキラと目映い光を映す剣を見て息子は喜びの声を上げた。新しい玩具でも見つけたように目を輝かせて剣を凝視している。 「これは普通にお店で売られている剣だ」 「なんていうけん?」 「ロングソードって剣だ、触るなよ。切れるぞ」 「ろんぐ、そーど? うん、おれさわんないよ!」 余程真剣、なのだろうか? 物分り良く頷いて、息子は私の言葉に耳を傾けて続きを気にしているようだった。 「もうひとつは?」 「ああ、こっちか。待ってろよ・・・」 抜き身にして置くのはあまり褒められた事ではないが、少しでも息子から離して置く事にする。 そして、もう一つの武器の鞘をゆっくりと抜く。先程のロングソードとは違う刃の瞬きが私の視界を駆け抜けていった。 「あー! ほそながい!」 「よく分かったな、ほら見比べてみろ」 そう言って両手に二本の武器を持ち、息子の前に出してやる事にする。 「こっちはな、刀って言うんだ」 「かたな? けんじゃないの?」 息子が首を傾げる。 「ああ、剣じゃない。・・・お前に分かるかな?」 「んと、けんのかたちだけじゃないの?」 「形が違うのもヒントだな」 少々物騒ではあるが子供からしたらちょっとした間違い探しだ。一丁前に眉間に皺を寄せてロングソードと刀を見比べている。 「んー・・・、わかんない」 「この刃の所を見てみろ。こっちの・・・」 ロングソードを動かし、「ロングソードは両刃で、こっちの・・・」と今度は刀を動かして「刀は片刃なんだ」と教えてやる。 「りょうば? かたば?」 聞き慣れない言葉に息子は首をかしげた。流石に難しかったか、とどう説明したものか考える。 だが、これも教育の一つとして正しい事を教えてやらねば。 「ロングソードはどっちの刃で斬っても斬れるんだ。でも、刀の方は・・・ほら、波打ってる方でしか斬れないんだよ」 「なみ・・・ってこっち? こっちじゃなきゃダメなの?」 と触れないように注意をして、息子が波打つ刃を指差した。私は頷いてやる。 「ああ、反対側では野菜すら斬れないぞ?」 「なんで? じゃありょうほうできれるロングソードのほうがつよい?」 「そんなことはない。どちらが強いのかは使う人次第・・・かな?」 「じゃあおとーさんがつかったらどっちがつよいの?」 当然な質問だろうな。こればかりは比べた事がないから下手な事は言えないのだし。 「俺はどちらかいうならロングソードだな」 「どうして?」 「刀はな、この辺りでは珍しい武器なんだ。だからなかなか慣れてる人がいないんだよ」 刀は東方の国で作られたあちらの国特有の武器だ。コレクターや冒険者ではない限り、こうして触れる機会はごく僅かに違いない。 「そっかぁ、ならカタナもなれてるひとがつかったらつよいんだ」 「ああ、とても強いと聞くな」 息子が満足したようなので一つずつ丁寧に武器を鞘に収めていく。互いにきちんと収まった時のキィン、という小さな金属音が美しい音色を奏でていた。 「ねぇ、おとーさん」 「どうした?」 椅子の上で足をぶらぶらと揺らしていたのを止め、大人しくなった気配がする。気になって顔をそちらに向けると、息子はまた少し難しい表情をしていた。 「おれ、いつになったらけんふれるようになるかな?」 「なんだ、振りたいのか?」 「うん、おとーさんみたいなつよいぼうけんしゃになりたいんだ!」 じっと息子の目を見る。大きくてあどけない瞳と視線がかち合った。向こうも変わらない真摯な姿勢で私を見ていた。 私のようになりたい、そう言われて悪い気がする親がいる訳がない。そして少なからず息子は子供ながらに本気なのだと判断した。 「お前が本当に剣を振りたいのなら、もっと大きくならないとな」 「おおきくなったらふれる?」 「ああ、好き嫌いなく飯も食ったらな」 「・・・う、じゃあがんばってくう・・・」 嫌そうな表情を隠しもせずに、息子が呟いた。その頭をよしよしと撫でてやる事にした。 この子が大きくなって、宣言通りに冒険者になったとしたら一体どんな冒険者になるのだろうか。未来への楽しみがまた一つ増えたのは確実だった。 END ”武器”を小説内で説明せよというお題を貰った時に、 ヒナさんのティルカ君とヤシュトールさんを何となくイメージして書いたものでした。口調や一人称が違うのはご愛嬌ということで・・(笑) |