ふと何者かの気配がして目が覚める。聞こえてくるのは静かに鳴く虫達の声。真っ暗な室内からは何も見えない。きっと夜も深いのだろうと私は理解した。
仲間達の見舞いが終わった後、妙な安堵感を抱いてからそのまま眠ってしまったのだろう。
体調を悪くして精神的にも支障をきたしてしまったに違いない。
「・・・あ、起こしちゃった?」
すぐ横で囁く声がした。そちらに顔を向けようと顔を上げる。するとすぐに身体を支えられた。少しして、空中にぼんやりと淡く光る球体が浮かび、うっすらと翼を広げる暖かな光帯びた鳥が現われる。
光のおかげで私を支えてくれた人の姿が見えて来ていた。声で想像がついた通り、アークさんだった。
「無理しなくていいから」
「し、かし・・・」
まだ上手く声が出ない。眠り続けていたせいで喉が乾き切っているせいもあるのだろうが、掠れてしまって喋るとわずかに痛みが走った。
「何言ってんの、ヴィックスは病人。分かったら言う事聞いて」
全く反論出来ない内容に私はこれ以上強くは言えなかった。ゆっくりとベッドに身体を任せる事にする。
「どう、して・・・」
掠れていても気になっていたので口にする。今日の朝から姿を見かけていなかったから、てっきり依頼をこなしているのだと思っていた。
実力も比べ物にならない彼等はおおよそこの宿一番の実力者だ。あそこまで到達すると比較的小さい依頼を受ける事は少なくなってくる。
その名を耳にした貴族や国からの直接の依頼が来る事も少なくない。今回もそうだと思っていたが・・・。
「依頼を終えて帰って来たらさ、ヴィックスが風邪引いて倒れたって聞いて。一度全員で様子を見に行ったんだけど、熟睡してたみたいだったし・・・」
「そう、でした、か」
「それで娘さんが飲み水を変えるって言うからオレが代わりに」
柔らかくアークさんは微笑んだ。フォウが纏う暖かな光のせいか、それとも私の目がぼんやりとしているせいなのか、とても神々しく見えた。
「あ・・・喉、乾いてたかな?」
返事をするのも辛くて小さく頷いて返した。
「起こしてあげるから待ってて」
身体は一番酷い頃に比べたら随分と楽になった方だ。しかし健康状態時に比べたら鉛球でも付けられたかのような重さとだるさだ。
申し訳ないと思いながらもアークさんは言う事の聞かない私の身体を支え、起こしてくれる。
コップに注がれている波打つ水を見やりながら、ゆっくりと飲んでいく。ひんやりとした水が心地良く、喉を通っていく感覚がやけに新鮮で身体全体に伝わっていくのが分かる。
「ありがとうございます・・・」
水で潤ったおかげもあるのだろう。先程よりも多少は聴き取りやすい声が出る。
ベッドの上に戻るのは起きる事よりはだいぶ楽だ。アークさんの腕からするりと抜けて横になるだけなのだから。
「食欲は?」
聞かれてから思い返す。今日はとくと食欲に関して頭に入らない。
特に差し入れ(?)の本当に食べ物なのかと疑いたくなる物達を思い出して更に食欲を失くした。
「いいえ、まだいいみたいです」
「そっか、じゃあまたゆっくりしてるんだよ」
アークさんは静かに立ち上がった。一度目が合うと優しく頭を撫でられた。それは不安な子供をあやすように撫でるそれと同じだった。
「おやすみ」
フォウの灯火が静かに静かに消えていく。
髪越しから感じる体温が更に安堵を招いてくれる。私が再びの眠りにつく為に、然程の苦労はしないだろうと重くなってきた瞼を閉じた。
END