傲慢の欠片 2月25日 わたしは何故魔力が備わっていないのだろう。 カラムホルム家に生まれたのに。 2月28日 魔法の矢が作れない。 あの人に言われた。何故使えない、と。カラムホルムの家の血を引きながら何故、と馬鹿にされた。 この家では魔力を持たない者は庶民以下だ。使用人ですら、わたしの事を蔑んだ目で見る。 そして 兄がいたら、 と口々に言う。 知らない。知らない。わたしにだって分からない。わたしだって魔力があったら、とどれだけ思ったか。 そうしたら馬鹿にされる事も、皆に蔑まれる事だってなくなるのに。 3月14日 わたしはただ飼われている。・・なんの為に? 悔しい、けれどわたしには打破する力も残されていない。 なんにも、ない。 4月12日 三日後、我が家に伝わる儀式をする事になった。わたしが満10歳になったからだろう。 カラムホルム家には血筋の者がしなければならない儀式がある。それは10歳を迎えた時に行うものだ。 儀式の詳しい内容は知らされていない。当日まで本人には教えてはならないのだそうだ。口伝で伝わっているものなのだとか。 ただ儀式は命の危険が伴う。わたしの兄はそれで命を落とした。
魔力は確かに高い人だったが儀式には耐えられなかったらしい。 兄の死体を見る機会があったが、人の死に方をしていなかった。 手足が捻じ曲がり、胴体がひしゃげ、顔は痩せこけていて、髪は抜け落ちていた。 きっと言われなければ兄とは気づかない。 そんな変わり果てた姿に魔力が高いだけでは駄目なのかと思ったものだ。 あの人はわたしが失敗するだろうと思っている。
自分が目を掛けていた兄が失敗したのだ、わたしが成功する訳がないと。 期待はしていないと面と向かって言われた。 わたしも今、不安に駆られている。 4月13日 わたしは死なない。わたしはあんな無様な死に方なんてしない。 死にたくない、死ぬまで蔑まれるのは嫌だ。 兄は甘い人間だった。昔から。
兄は甘すぎた。だから死んだのだ。 嫌い、兄も、あの人も、使用人も。皆、皆嫌い。 4月14日 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。 わたしが死んでも誰も悲しまない。 だから喜ばせたくない。 死にたくない。 4月15日 あと30分もしたら儀式が始まる。 この儀式を越えなければ、わたしの存在意義全てが否定される。そんなのは嫌だ。 わたしは越える。 これを越えて、わたしを馬鹿にしていた者達を見返してやるのだ。 4月22日 疲れた。激しい疲労がわたしの身体を蝕む。 儀式は、成功した。 わたしの体内を巡り、漂う魔力が暖かい。 ずっと眠っていたらしい。儀式でとある力の強い悪魔が現われ、契約した。 生への執念の深さが気に入られたらしく、わたしはその悪魔と血を交わした。 どうなるのかと思ったが、悪魔の血はわたしに馴染んだようだった。 身体は軋んでいるが気分はいい。これで、わたしはわたしの思うように出来る。 まずはわたしを馬鹿にした連中から。 あの人も、あの人の息がかかった部下なんて要らないもの。お下がりなんてまっぴら。 消してしまえばいいんだわ。 END |