モリバネさんのシナリオ「キティ」より。

頼みを告げた男は既に立っている事すら限界だった。話を聞いたサディーノは鷹揚に頷き、微笑む。
「いいでしょう、貴方の願い聞き届けましょう」
男の血塗れた目元が嬉しそうにほころぶ。
「ほ、んとう・・です、か?」
「ええ、貴方はいつまでも彼女の元に居たいのでしょう。その気持ち分かりますとも」
ポタリ。ポタリ。
床に落ちる赤い雫だけが音を奏で、グリアードの鋭い瞳がそれを追う。だが興味もなさそうにすぐに顔を背けた。
「サディーノ。その子、どうするのかしら?」
話を聞いていたエストラーネが目を細めた。
どういう事を意味しているのかはその場にいた全員が理解していた。
「もちろん、殺しますよ。そうしなければ彼は無念のままではありませんか」
「それを・・誰がするのかしら?」
彼女の声が歌うように囀る。
「自分でやると言ったんだ、自分でやらせればいい」
即座に反応を返したのはデナッツだった。小柄な彼は初めから興味のない様子で男へ背を向けていた。
「俺様も興味ねぇな!こんな死にぞこない、いたぶるのだって楽しくねぇぜ」
声を殺してグリアードはクククと笑う。
サディーノはそれらの言葉を聞いた後、やれやれと肩をすくめた。目元は黒い布に覆われているというのに困惑した表情が浮かぶようだった。
「全く・・・仕方のない人達ですね。・・ではよろしいですか? きちんと貴方からの届け物は彼女に渡しますので、ご安心下さい」
後半は男へ向けられていた。男はふらついた身体で小さく頷く。
ただ、自分の願いが叶うということにわずかに微笑んだ。
優雅でもあるその足取りでサディーノは男の前へと近付いた。口元だけしか見えないその笑みがどういったものであるのか―男は理解出来なかった。これが最期である彼には理解する必要もなかったのである。
「では――さようなら、名も知らぬ方」
優しい言葉を掛けたサディーノは利き手を素早く薙いだ。
美しい鮮血の雫がサディーノの前方を飛ぶ。それと同時に男の身体がぐらつき、その場に崩れ落ちた。
「貴方の狂気はとても・・・心地良かったですよ、とてもね」
背後でクスクスと笑う少女のような声。
「やぁだ・・・汚いわ、それちゃんと掃除してよね? ガラント、手伝っておあげなさい。丁寧な仕事は必要でしょうから」
「・・・は、畏まりました。お嬢様」
事切れた死体を抱え上げたサディーノは想像以上の身体の軽さに驚きを隠せなかった。
「そういえばどう調理したら、美味しいんでしょうね? 『これ』」
その質問に答える者はいなかった。


END