プレイシナリオ: 深い淵から/cobaltさん
Side−アーク
「もう・・大丈夫だよ?」
「いいえ、今のアークさんの言葉は信用なりません」
きっぱりと言い切られる。ヴィックスの横顔はまるで怒っているみたいだった。
「でも、向こうでも休んだし・・」
「いいえ、まだ足りない位です」
オレが言い終わるよりも早く、ヴィックスが返答を重ねた。
「今は特にする事もないのですから、リューンへ着くまで横になっているべきです」
ガタゴトと乗り合い馬車が揺れる。リューンへと向かう馬車だった。
激しい痛みと戦い意識が途絶え、正直死んだかと思った。それ程の衝撃だった。し
かしオレが目を覚ましたのは水の眷属達の集落で、族長の家だと分かったのはしばらくしてからだ。それまでぼんやりしていて意識もハッキリとしていなかった
ものの、仲間達の顔を見ている内に覚醒していった。
まともに話が出来るようになってから、これまでの事情を聞いた。動けるようになったので水中から地上へ脱し、本来の予定であったリューンへの帰路に着いている。
メンバーの中でも特にヴィックスは頑なで、オレが積極的に行動する事を嫌がり、さっきのように大人しくして欲しいと言って聞かない。
・・そりゃまぁ、正直まだ頭痛は残っている。けれど、それ以上の激痛を食らう必要がないと考えればマシだと思って口にしていない。身体ではなく心を抉り引き裂くような痛みは今思い返しても恐怖を感じた。
「ヴィックスさんが仰っている事は間違っていないと思いますよ」
ヴィックスの意見に賛成したのはリリムだった。わずかに苦笑した彼女と目が合う。
「そんなぁ・・」
「それにだ」
一つ咳払いをしたのはアスターだ。馬車に揺られる身体を背もたれに預け、オレを一瞥した。
「お前は記憶を故意に変えられそうになっている。ゆっくりしすぎる位がいいだろうさ、肉体の負担の治癒と比べて、心の負担の治癒ばかりは時間がかかる」
「むぅ・・」
「いなくなって心配したのは俺達だけではなく、ゾルディアスもそうだと言う事を忘れてやるなよ」
そこを言われてしまうともう何も言えなくなってしまう。ゾルディアスは再会してからというもの、オレの側からぴくりとも離れない。普段なら興味の引いたものがあるとトコトコと行く事もあるのに、決して動こうとはしなかった。
「それは・・ごめんなさい」
今もオレの膝の上で眠っているゾルディアスの頭を撫でながら、思った事を口にした。
「じゃあ寝てるけど、着いたらちゃんと起こしてよ?」
「あまりによく眠ってらっしゃるなら抱えて行ってもいいのですが・・」
「あら、それでもいいんじゃないかしら」
何だか至極真面目な表情で心配してくれてるであろうヴィックスと、多分からかおうとしてるらしいマリアの言葉が返って来る。
「あの・・ちゃんと起こしてよ? 目が覚めたら宿に居たとかオレやだよ?」
「大丈夫だから、安心して寝ておけ」
「うん・・」
サタナエルの苦笑い混じりの声が聞こえてきた。少しホッとしてオレはマントにくるまって目を瞑った。
END