プレイシナリオ: 深い淵から/cobaltさん

Side−ヴィックス


深く暗い蒼の中で揺れる金の髪。その中でもキラキラとなびく太陽の如き光は海の底にいる自分を見つけて欲しいと願う沈黙の抵抗。
解呪の儀式を終えて、アークさんが帰って来る。まだ意識が薄いのか、ゆらりゆらりとおぼつかない足取りでこちらへと近付いて来ていた。それをしっかりと受け止めたのはリーダーであるサタナエルだった。
「アーク? アーク!」
「・・・・・・」
肩を揺られているがアークさんは一言も返事を返さない。
「意識は・・・まだ戻る気配がないか」
アステフィルさんが海中で揺れるアークさんの様子を窺っているが、小さく首を横に振って見せた。
族長の話によれば、解呪の儀式に関しては一つも間違ってはいなかったようだった。ただ大量の記憶がアークさんの頭の中を駆け巡り、身体に必要以上の負荷がかかっているせいではないか、という事だった。
「ほら、ヴィックス。あなたも心配していたじゃない。ぼうっとしてないで、こちらにいらっしゃい」
マリアさんに支えられてアークさんが私の方へとやって来る。マリアさんが静かに手を離すと水の流れに伴ってこちらへ流れてきた。
そして私は大事な人を受け止める。強く抱き締める。海の中だと言うのに彼の奥で息づく温もりを感じた。水の眷属になっていない、私と同じ人の温もりだった。
――と同時に気が緩んだのだろう。私はアークさんの温かい身体をかき抱いたまま、その場に崩れ落ちた。
「良かった・・!! 本当に、本当に・・っ」
今まで必死に堪えていた不安がこぼれ出す。息が詰まりそうだった。アークさんの生命の鼓動を目の当たりに出来て、私は目が眩みそうだった。
自分の目元から涙が零れているのが分かった。周りにも見えているのかもしれない。だがそれは私にとって瑣末な事だった。
「貴方を失ったら・・、私は・・どうすればいいのですか・・・!!」
貴方が生きていなければ、私は恐らく多くの手勢に襲われ惨めに死んでいただろう。
貴方が居たから私はこうして生きている。こうして新しい道を歩めている。人としての感情を殺して生きてきた私に、貴方は人としてのあるべき喜びを教えてくれたというのに。
「私には・・・貴方こそが光なのに・・っ」
頭では分かっている。アークさんは無事なのだと。残すは目を覚ますだけなのだと。
でも一度吐き出した言葉は止まらない。止める方法を私は知らない。
私は脇目も振らずに声を出して泣いた。ぐしゃぐしゃになる程に。



END